テレビで「ほうれん草が目の健康にいい」という内容を見て、「緑内障にもいいの?」「毎日食べたほうがいい?」と気になった方もいるのではないでしょうか。
実際、ほうれん草などの葉物野菜に含まれる栄養素と、緑内障との関係を調べた研究はあります。
ただし、現在の研究から「ほうれん草を食べれば緑内障が治る」「緑内障の進行を止められる」とはいえません。
特に注目されているのが、葉物野菜に含まれる「硝酸塩」です。食事由来の硝酸塩を多く摂取している人では、原発開放隅角緑内障の発症リスクが低かったという観察研究が報告されています。
この記事では、ほうれん草と緑内障について研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを整理しながら、眼科で10年以上検査に携わってきた視能訓練士の視点から、食事と緑内障の付き合い方をわかりやすく解説します。

緑内障とは?視神経と視野に影響する病気
緑内障は、視神経が障害されることで、視野(見える範囲)に特徴的な変化が起こる病気です。
初期には自覚症状が乏しいことも多く、見えにくい部分があっても反対の目で補うため、自分では気づきにくいことがあります。
日本緑内障学会の「緑内障診療ガイドライン第5版」では、緑内障治療の原則として、眼圧を十分に下降させることが示されています。
ほうれん草と緑内障|研究で分かっていること
ほうれん草などの葉物野菜には「硝酸塩」が含まれています。硝酸塩は体内で一酸化窒素(NO)に関わる経路へ変換され、血管機能や眼圧を調節する仕組みとの関連が研究されています。
食事由来の硝酸塩と緑内障の研究
2016年に『JAMA Ophthalmology』で報告された前向きコホート研究では、食事由来の硝酸塩を多く摂取している人ほど、原発開放隅角緑内障の発症リスクが低いという関連がみられました。
この研究では、米国の医療従事者を対象とした2つの大規模コホートを長期間追跡し、食事内容と緑内障の発症との関係が調べられています。硝酸塩の主な摂取源として、ほうれん草を含む緑色葉物野菜も挙げられています。
ただし、この結果は「ほうれん草を食べると緑内障を予防できる」と証明したものではありません。
食生活と病気の発症との関連を調べた観察研究であり、ほうれん草や硝酸塩そのものが緑内障の発症を防いだという因果関係までは確認できません。
別の研究でも同様の関連が報告されている
2022年に報告されたRotterdam Studyでも、食事由来の硝酸塩摂取量が多いことと、開放隅角緑内障の発症リスクが低いこととの関連が報告されています。
一方、この研究では硝酸塩の摂取量と眼圧との間に明確な関連はみられませんでした。
このことからも、硝酸塩と緑内障の関係については研究が続いている段階であり、特定の食品を緑内障の治療や予防目的で積極的に摂取すべきとまではいえません。
ルテインも目の健康との関連が研究されている
ほうれん草には、ルテインなどのカロテノイドも含まれています。
ルテインは網膜の黄斑部などにも存在する成分で、光や酸化ストレスとの関係から、目の健康について幅広く研究されています。
ただし、緑内障については、ルテインを摂取することで緑内障の進行を抑えられるという治療効果が確立されているわけではありません。
「ほうれん草そのものの治療効果」が証明されたわけではない
ここは特に大切なポイントです。
現在報告されている研究は、「葉物野菜や食事由来の硝酸塩を多く摂取している人ほど、緑内障の発症が少なかった」といった関連を調べたものです。
すでに緑内障がある人がほうれん草を食べることで、眼圧が下がったり、失われた視野が戻ったり、緑内障の進行が止まったりすることを示した研究ではありません。
ほうれん草を食べれば緑内障は治る?
結論からいうと、ほうれん草を食べることを緑内障治療の代わりにすることはできません。
現在、緑内障の進行を抑えるために科学的根拠が確立している治療の基本は、眼圧を下げることです。
患者さんの状態によって、点眼薬、レーザー治療、手術などが選択されます。
「ほうれん草を食べているから大丈夫」と考えて、点眼薬を自己判断で中止したり、使用回数を減らしたりしないことが重要です。
緑内障では、眼圧だけではなく、眼底検査やOCT、視野検査などを組み合わせ、以前の結果と比較しながら進行していないかを確認していきます。
緑内障における食事の位置づけ
食生活を整えることは、目だけではなく全身の健康を維持するうえでも大切です。
ただし、緑内障では「治療」と「食生活」を同じ位置づけで考えないことが重要です。
治療と定期検査を優先する
眼科医の指示に従って治療を継続し、眼圧・OCT・視野検査などで経過を確認することが基本です。
食事は健康を支える生活習慣として考える
ほうれん草だけを大量に食べる必要はありません。葉物野菜を含め、さまざまな食品をバランスよく摂取することを基本に考えましょう。
「目にいい食品」を治療の代わりにしない
食品やサプリメントについて気になるものがあっても、処方された治療を自己判断で変更しないことが大切です。
眼科の現場で感じる大切なこと
眼科で患者さんの検査を担当していると、「この食べ物は目にいいですか?」「サプリメントを飲んだほうがいいですか?」と質問されることがあります。
「自分の目を守りたい」「できることは何でもしたい」という気持ちは、とてもよく伝わってきます。
テレビやインターネットで「目にいい」と紹介された食品があっても、一つの食品だけで病気をコントロールできるわけではありません。
まずは治療と定期受診を続けること。
そのうえで、食生活を含めた日々の健康管理を無理なく続けていきましょう。
ちなみに、私自身もほうれん草は好きで、普段の食事でよく食べています。
ほうれん草と緑内障についてよくある質問
ほうれん草を食べれば緑内障を予防できますか?
A.現時点では、「ほうれん草を食べれば緑内障を予防できる」とは言えません。葉物野菜や食事由来の硝酸塩を多く摂取している人で原発開放隅角緑内障の発症リスクが低かったという研究はありますが、観察研究であり、因果関係を証明したものではありません。
毎日どれくらいほうれん草を食べればいいですか?
A.緑内障のために「1日○グラム食べればよい」という基準は確立されていません。特定の食品だけを大量に食べるのではなく、日々の食生活の中でさまざまな野菜を取り入れることが大切です。
ルテインのサプリメントを飲んだほうがいいですか?
A.ルテインと目の健康についてはさまざまな研究がありますが、緑内障の治療として摂取すべき量や治療効果が確立されているわけではありません。サプリメントは緑内障治療の代わりにはならないため、継続して使用したい場合は主治医や薬剤師に相談してください。
ほうれん草以外の食品も意識したほうがいいですか?
A.はい。ほうれん草だけにこだわる必要はありません。野菜・果物・魚などを含め、全体としてバランスのよい食生活を意識することが基本です。

たなか視能訓練士(ORT)
眼科医療の現場で10年以上、視力検査・視野検査・眼圧検査・OCTなどの眼科検査に従事。臨床経験と公的機関・学術情報をもとに、目に関する情報をできるだけ分かりやすく解説しています。
本記事の参考文献・出典
- 日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン 第5版
緑内障の診断・治療方針、眼圧下降治療などについて参照。 - Kang JH, et al. Association of Dietary Nitrate Intake With Primary Open-Angle Glaucoma: A Prospective Analysis From the Nurses' Health Study and Health Professionals Follow-up Study. JAMA Ophthalmology. 2016.
食事由来の硝酸塩・緑色葉物野菜の摂取量と原発開放隅角緑内障の発症との関連を検討した前向きコホート研究。 - Vergroesen JE, et al. Dietary Nitrate Intake Is Associated with Decreased Incidence of Open-Angle Glaucoma: The Rotterdam Study. Nutrients. 2022.
食事由来の硝酸塩摂取量と開放隅角緑内障の発症との関連を検討した研究。
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の食品による緑内障の予防・治療効果を保証するものではありません。緑内障の治療内容や点眼薬を自己判断で変更・中止せず、診断や治療については眼科医へご相談ください。