私は普段、眼科で視能訓練士として働いています。視力検査や両眼視機能の検査、弱視・斜視のトレーニングなど、患者さん一人ひとりと向き合う仕事です。
SNSは仕事とは別に、たまに投稿する程度でした。「せっかくアカウントを作ったのに、何を発信すればいいのか分からない」「フォロワーが増えないまま放置してしまっている」。そんな状態が続いていたときに手に取ったのが、津金澤健人さんの『インスタで売れる全技術 〜Instagramで結果を出す実践的な運用のすべて〜』でした。
読み終えて感じたのは、この本は単なる「バズらせるためのテクニック集」ではないということです。むしろ、発信する側が「誰に、何を、どう届けるのか」を改めて考え直すための一冊だと感じました。Instagramを仕事につなげたい人向けの本ではありますが、私は「どうすれば患者さんに必要な情報を分かりやすく届けられるか」という視点で読み進めました。
医療現場の人間として、特に印象に残った部分
特に印象に残ったのは、「コンセプト」と「プロフィール」に関する章です。本書では、フォロワーを増やすための細かいテクニックよりも先に、「自分は何者で、誰の役に立てるのか」を明確にすることの大切さが繰り返し語られています。
読んでいて、これは診療の現場にもよく似ていると思いました。私たちが検査室で患者さんと向き合うとき、まず考えるのは「この方は何に困っているのか」「何を不安に感じているのか」ということです。SNSでも同じで、ただ専門知識を並べるだけでは十分ではありません。
「子どもの近視の進行が心配な保護者の方」なのか、「最近見え方に違和感がある方」なのか。届けたい相手をある程度はっきりさせることで、初めて使う言葉や伝える内容も決まってくるのだと気づきました。
たとえば「子どもの近視」をテーマにするとしても、近視が起こる仕組みを詳しく説明するのと、「学校の視力検査で引っかかったけれど、すぐ眼科へ行ったほうがいい?」「メガネをかけると近視が進むの?」といった保護者の疑問に答えるのとでは、受け取られ方はかなり違います。
専門知識をそのまま見せるのではなく、相手が知りたい形に変えて届ける。この考え方は、今後の発信で特に意識したい部分です。
また、「コンテンツ」の章で触れられている、専門用語を並べるのではなく、相手の生活に近い言葉に置き換えて伝えるという考え方も印象に残りました。
医療の現場では、こちらが当たり前に使っている言葉でも、患者さんには伝わりにくいことがあります。普段何気なく使っている言葉ほど、「これは初めて聞く人にも伝わるだろうか」と考える必要があります。そう考えると、SNSの投稿を作ること自体が、自分の説明の仕方を見直すトレーニングにもなりそうです。
「売る」という言葉への印象も少し変わった
正直に言うと、医療職として働いている自分にとって、タイトルにある「売れる」という言葉には、読む前は少し距離を感じていました。普段の仕事では、何かを売ることよりも、正確な情報を伝えたうえで、患者さん自身に納得してもらうことを大切にしているからです。
ただ、読み進めるうちに、この本でいう「売る」は、単純に商品を勧めることとは少し違うのだと感じるようになりました。自分が提供できる価値を、必要としている人にきちんと届ける。そう考えると、医療情報の発信にも通じる部分があります。
どれだけ正しい情報を持っていても、必要な人の目に触れなければ役には立ちません。一方で、専門性を意識しすぎて難しい言葉ばかりになれば、途中で読むのをやめられてしまいます。
医療職はどうしても、「正しい情報であれば伝わる」と考えがちです。しかし実際には、正しいことと、分かりやすく届くことは別の問題です。
本書を読んで、情報を発信するなら「伝える」だけでなく、「届くところまで考える」必要があるのだと気づけたことは、大きな収穫でした。
今後試してみたいこと
これまで「たまに投稿する程度」だった発信ですが、まずはプロフィール欄の見直しから始めようと思います。本書では、プロフィールを見た人が短い時間で「自分に関係のある発信者かどうか」を判断できることが大切だと書かれています。視能訓練士として、どのような悩みに答えられるのか。それが一目で伝わるようなプロフィールに整えてみたいです。
そのうえで、近視の進行抑制や子どもの視力発達など、患者さんから普段よく聞かれる質問をもとに投稿を作っていきたいと考えています。特に意識したいのは、「自分が発信したいこと」から考えるのではなく、「相手が知りたいこと」からテーマを決めることです。
また、「インサイト」の章にあったように、投稿して終わりにするのではなく、反応を見ながら少しずつ内容を変えていくことも試してみたいです。どのテーマが読まれたのか、保存されたのか、プロフィールまで見てもらえたのか。そうした反応を見て、次の投稿につなげていく。
この地道な改善の繰り返しは、検査結果を比較しながら患者さんの経過を追っていく普段の仕事にも少し似ています。いきなり大きな結果を求めるのではなく、まずは続けながら改善していくことから始めたいと思います。
どんな人に読んでほしいか
同じ視能訓練士はもちろん、看護師や薬剤師、理学療法士など、患者さんや利用者さんに日々何かを説明している医療職の方には、特に響く内容だと思います。専門知識は学校や現場で学びますが、それを「相手に届く言葉」に変える方法については、意外と学ぶ機会がありません。
また、本書は美容師や整体師、講師業など、対人サービスで信頼を積み重ねていく仕事にも通じる内容だと感じました。数字を増やすためだけの本ではなく、「自分の仕事の価値を、必要としている人にどう伝えるか」を考えるきっかけになる本です。
Instagramをすでに本格的に運用している人だけでなく、「発信したほうがいいのは分かっているけれど、何から始めればいいのか分からない」という人にも向いていると思います。
私自身も、この本を読んだからといって急に投稿が得意になったわけではありません。ただ、何となく投稿するのではなく、「誰に向けて、何を伝えるのか」を考えてから発信するという軸はできました。発信を後回しにしてきた自分のような人にこそ、読んでほしい一冊でした。
紹介した書籍
書籍名:『インスタで売れる全技術 〜Instagramで結果を出す実践的な運用のすべて〜』
著者:津金澤 健人

たなか 視能訓練士(ORT)
眼科医療の現場で10年以上、子どもの視力検査や近視関連の検査に従事。検査室で実際に受ける相談や、保護者が誤解しやすいポイントをもとに、専門的な内容をできるだけ分かりやすく解説しています。
※本記事は、書籍を読んだ筆者個人の感想・学びをまとめたものです。記事内で触れている医療に関する内容は、特定の診断や治療を目的としたものではありません。