実は私は格闘技が好きなんですが、BreakingDownっていう朝倉未来さんが主宰している格闘イベントを毎回チェックしています。そこで、今回は田中雄二選手についてなんですが対戦カードが決まり「いよいよ!」というタイミングで網膜剥離による欠場発表。
診断後すぐに緊急手術となったようです。「そこまで急ぐ必要があるのか?」と感じるかた多かったんじゃないでしょうか。
今回は、視能訓練士(=眼科専門の国家資格を持つ医療技術職のこと)として、臨床経験も踏まえながら、網膜剥離の症状や原因、注意したいサインについて解説していきます。
- 田中雄二選手が網膜剥離でBreakingDownを緊急欠場。即手術の決断は選手生命を守るための最善の選択。
- 網膜剥離は時間との勝負。発見が遅れると失明のリスクが高まる極めて深刻な疾患。
- 痛みのない「飛蚊症」「光視症」「視野欠損」という3つの初期症状を見逃さないことが大切。
視能訓練士 たなかより
「ただの疲れ目」や「年齢のせい」と放置されがちな網膜剥離ですが、痛みが全くないため手遅れになるリスクがあります。少しでも異変を感じたら、今すぐ専門の検査を受けましょう。
田中雄二(雄士)選手が公表した「網膜剥離」の経緯
BreakingDown19を目前に控えた練習中、田中雄二選手は目の違和感を覚え、受診した結果「網膜剥離」と診断されたことをSNSで公表しました。
診断後すぐに緊急手術となったことからも、迅速な対応が必要な状態だったことが分かります。
「あと1週間遅れていたら失明の可能性があった」というスタッフの言葉もありましたが、網膜剥離では実際に、発見や治療のタイミングが非常に重要になるのです。
特に、視力の中心を担う「黄斑部(=網膜の中心にある最も重要な部分のこと)」まで剥離が及ぶと、手術後も視力回復が難しくなるケースがあります。
格闘家にとって視機能は、競技パフォーマンスに直結する重要な要素。今回の早期受診と手術の判断は、非常に重要だったと言えます。
視能訓練士が教える「網膜剥離」の正体
網膜は「光を感じるセンサー」
網膜とは、目の奥に張り巡らされたカメラのフィルムのような薄い膜。私たちがものを見る際、レンズを通ってきた光をこの網膜がキャッチし、神経を通じて脳へ伝えることで初めて「見えた」と認識する仕組みです。
この網膜が剥がれることで、視野欠損や視力低下が起こります。
さらに、剥離した状態が長く続くと、網膜の機能自体が低下してしまうため、早期治療が重要になります。田中選手が早い段階で手術を受けたのも、視機能を維持するための緊急治療が必要な状態だったと考えられます。
なぜ格闘家は網膜剥離になりやすいのか?
格闘家にとって、網膜剥離は常に隣り合わせの職業病。最大の原因は、言うまでもなく目への直接的な強い打撃です。
顔面にパンチを受けると、その衝撃によって網膜に「裂孔(れっこう=網膜にできる亀裂や穴のこと)」という裂け目ができ、そこから液体が入り込むことで剥離が進行していきます。
裂孔から液体が入り込むことで、網膜剥離が進行していく仕組みです。
また、一度の大きなダメージだけではなく、日々のスパーリングによる蓄積も無関係ではありません。違和感を覚えた段階で、早めに眼科を受診することが大切です。
絶対に見逃せない網膜剥離の「3つの初期症状」
網膜には痛覚がないため、剥離が進んでも痛みを感じることはありません。そこでどのような症状が出たら注意すべきか、詳しく説明していきましょう。
視界に黒いゴミが走る「飛蚊症」
青空や白い壁を見たとき、目の前を蚊や糸くずのようなものがふわふわ飛んで見える現象が「飛蚊症(ひぶんしょう)」です。目の中の濁りが影となって網膜に映る現象で、加齢や近視による生理的なケースも多数あります。
しかし、怖いのはその「急激な変化」です。黒いゴミの数が突然バッと増えたり、墨汁を流したように形が大きくなったりした場合、網膜が破れている可能性大です。
田中選手のように違和感を覚えたら即受診すべきです。
暗闇でピカッと光る「光視症」
目をつぶっている時や暗い部屋にいる時、視界の端でカメラのフラッシュや稲妻のような光がピカッと走る。これを「光視症(こうししょう)」と呼びます。
原因は物理的な刺激。剥がれかかった網膜が強く引っ張られる刺激を、脳が誤って「光」として認識してしまう現象です。この光の頻度が上がるのは、まさに今、網膜がベリベリと剥がされようとしている危険なサイン。この段階で眼科に駆け込めば、重症化を食い止める確率が格段に上がります。
視界の一部が暗くなる「視野欠損」
「視界の端に黒いカーテンがかかった」「下半分だけが急に暗くなった」と感じたら、すでに網膜剥離がかなり進行している証拠。剥がれた範囲は光を感知できないため、その部分の映像がすっぽりと抜け落ちて影になります。
スタッフが言及した「失明のリスク」とは、まさにこの視野欠損が目の中心である「黄斑部(おうはんぶ=視力の最も中心を担う重要な場所のこと)」まで到達してしまう状態のこと。
黄斑部まで剥離が及ぶと、視力回復が難しくなるケースもあります。視野欠損を伴う場合は、できるだけ早く眼科を受診してください。
【要注意】格闘技をしていなくても網膜剥離になる原因
網膜剥離は、格闘家だけの特別な病気ではありません。激しいスポーツを一切しない一般の方であっても、ある条件が揃うと突然発症するリスクが潜んでいます。
強度近視による網膜の引き伸ばし
視力が極端に悪い「強度近視」の方は要注意。近視が強い目は、眼球の奥行きである「眼軸(がんじく=目の前後の長さのこと)」が、通常よりもラグビーボールのように前後に長く伸びています。
眼球自体が引き伸ばされると、内側の網膜も道連れに引っ張られてしまいます。結果として、ラップを無理やりピンと伸ばしたような、非常に薄く破れやすい状態になってしまうの दस्ते。この薄い部分にちょっとした拍子で穴が開き、剥離へ繋がるケースは後を絶ちません。裸眼視力が0.1未満などかなり低い方は、目をぶつけた経験がなくても日頃から警戒が必要です。
加齢に伴う硝子体の変化
年齢を重ねることも、大きな原因のひとつ。目の中には「硝子体(しょうしたい)」という透明なゼリー状の組織が詰まっています。このゼリーは、加齢とともに成分が変化して水っぽくなり、少しずつ体積がしぼんでいく特性があります。
問題は、このゼリーが縮んで網膜から離れる瞬間。網膜に強く癒着(=くっついていること)している部分があると、剥がれる勢いで網膜を引きちぎり、穴を開けてしまうのです。これを専門用語で「後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり)」と呼びます。中高年以降に飛蚊症が急増するのはこれが原因。誰もが通る老化現象ですが、その過程で「網膜まで破いてしまうか」が、単なる加齢と失明の危機を分ける決定的なボーダーラインになりますね。
「網膜剥離」と診断されたら?治療と入院生活
網膜剥離は、風邪や擦り傷のように自然治癒する病気ではありません。放置すれば確実に進行し、放置すれば失明に至る可能性もあります。そのため、診断が下った段階で速やかに手術を受ける必要があります。
治療の基本は「手術」
治療のアプローチは、剥離の進行度によって決定されます。まだ網膜に穴が開いただけの初期段階(網膜裂孔)なら、レーザーで穴の周囲を焼き固める「光凝固術」で進行をストップさせることが可能です。この段階なら外来処置できるレーザーですぐにできます。
しかし、田中選手のようにすでに網膜が剥がれ始めていると、即入院。「硝子体手術」や「強膜(きょうまく=白目の壁のこと)バックリング手術」かガスを注入する硝子体手術が必要になります。
これは剥がれた網膜を元の位置にピタッと押し戻し、再び接着させる高度な処置です。現代の医療技術で手術自体の成功率は高いものの、術後の視力が戻るかは「どれだけ早く手術できるか」にかかっています。
| 進行度・状態 | 主な治療法 | 入院の有無 | 特徴・処置内容 |
|---|---|---|---|
| 網膜裂孔 軽度(網膜に穴が開いた初期段階) |
網膜光凝固術 (レーザー治療) |
不要 (外来治療) |
レーザー照射によって穴の周囲を焼き固め、剥離への進行をくい止めます。 |
| 網膜剥離 重度(網膜が剥がれている状態) |
硝子体手術、または 強膜バックリング手術 |
必要 (即入院) |
原因となる牽引を取り除き、ガスなどで内側から網膜を押し当てて再接着させます。 |
早期発見時のメリット
日帰り(外来)のレーザー治療で済むため、入院の必要がなく、視力低下や視野欠損が起こる前に病気の進行を阻止することができます。
発見が遅れた場合のデメリット
即座に入院して本格的な外科手術を行う必要があり、術後の過酷な姿勢制限が伴うほか、視力障害などの後遺症が残るリスクが高まります。
術後の「姿勢制限」が非常に大切です
手術の痛み以上に患者さんを苦しめるのが、術後の過酷な入院生活。治療では目の中に特殊なガスやオイルを注入し、その「浮力」を使って網膜を内側から押し付けます。浮力を正確な位置に効かせるため、術後は数日から1週間ほど、ひたすら「うつ伏せ」などの指定された姿勢を維持しなければなりません。
食事中も睡眠中も顔を下に向ける生活は、体力的にも精神的にも大きな試練。しかし、この壁を耐え抜くことが網膜の定着に直結します。
まとめ:目に違和感を覚えたら、迷わず眼科へ
網膜剥離は、早期発見・早期治療がとても重要な病気です。今回、田中選手は練習中の違和感を放置せず受診し、必要な治療につながりました。結果として、競技復帰だけでなく視機能を守るうえでも大きな判断だったと思います。
報道では「あと一週間遅れていたら失明の可能性もあった」と伝えられていました。
もちろん症例によって経過は異なりますが、網膜剥離は進行すると視力予後に大きく影響することがあるため、違和感を軽視しないことが大切です。
痛みを伴わないケースも多く、「疲れ目かな」「そのうち治るかな」と様子を見てしまうことがあります。しかし、飛蚊症が急に増えた、暗い場所で光が走るように見える、視界の一部が欠けるといった症状がある場合は、できるだけ早めに眼科を受診してください。
日々の外来でも、「もう少し早く来ていれば」経過がよかったのになぁというとがあります。だからこそ、異変があったら見逃さないことが大切だと感じています。
網膜剥離に関するよくある質問(Q&A)
格闘技をしていなくても網膜剥離になる原因はありますか?
A. はい、あります。激しいスポーツをしない方でも、眼球の奥行きが長く網膜が薄くなっている「強度近視」の方や、加齢によって目の中のゼリー状の組織(硝子体)が収縮する中高年以降の方は、日常生活の中で網膜に穴が開き、剥離を発症するリスクが十分に潜んでいます。
網膜剥離の手術後はどのような生活になりますか?
A. 網膜剥離の手術では、目の中に特殊なガスやオイルを注入し、その浮力を利用して網膜を内側から押し付けて接着させます。そのため、術後は浮力を正確な位置に効かせる必要があり、数日から1週間ほど、食事や睡眠時も含めてひたすら「うつ伏せ」などの指定された姿勢を維持する過酷な姿勢制限を伴う入院生活が必要となります。

たなか 視能訓練士(ORT)
本記事の参考文献・出典
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断を代替するものではありません。手術適応やケアについては必ず眼科で相談してください。

実は、もともとの目の状態(





